末梢性顔面神経麻痺の治療とケア ~急性期から慢性期まで~
1. 末梢性顔面神経麻痺とは?
末梢性顔面神経麻痺は、顔面神経(第VII脳神経)が障害されることによって、顔の片側が動かしにくくなる疾患です。代表的なのは*ベル麻痺(特発性)や**ラムゼイ・ハント症候群(帯状疱疹によるもの)です。
2. 急性期の対応(発症~約2週間)
● 医療との連携が最優先
- 薬物療法(ステロイド、抗ウイルス薬など)が基本となります。
- この時期は「炎症を抑える」ことが最重要です。
● あん摩・指圧・鍼灸師としてできる対応
※急性炎症が落ち着くまでは患側への刺激は控える必要があります。
◎対象外の部位は避け、以下を実施
- 肩や頸部の筋緊張を緩めるマッサージ
- 首や肩の過緊張があると、血流・リンパ循環が悪化し、治癒を妨げてしまいます。まずは頚部や肩から背中の筋肉に対して筋肉のこわばりを解消する目的でマッサージを行います。発生直後に麻痺が発生しているところへ施術すると、炎症の増強につながる恐れがありますので、麻痺が原因となって発生する周辺の筋肉にアプローチを行います。
- 自律神経を整え頚部の緊張をやわらげる鍼灸施術
- 内関、百会、足三里など全身調整の経穴を使用することで自律神経を整える鍼灸施術を行います。また、首や肩への鍼施術を行うことで、頚部のこわばりを解消することができます。
3. 回復期・慢性期の対応(発症2週以降~数か月)
この時期から、顔面部への直接的なアプローチが可能になります。
● 鍼灸施術
- 表情筋への浅刺または接触鍼を行います。
- 筋肉の反応をみながら、左右のバランスを取ることが大切です。
- 顔面神経に関連する地倉、頬車、陽白、翳風などの経穴に対してアプローチをしていきます。
● あん摩・指圧・軽擦法
- 表情筋に沿って顔面の筋肉へのマッサージを行います。
- それによって筋委縮予防と神経の再教育が期待できます。
- また、顎の関節や首周囲にもアプローチすることで、筋膜の緊張やリンパの流れを改善します。
● 運動療法・リハビリ
- ミラーセラピー(鏡を使った運動)を行います。
- 表情筋トレーニング:口をすぼめる、目を閉じる、頬を膨らますなどの運動を行います。
- 反復練習と感覚入力の組み合わせが効果的です。
4. ケアの注意点と経過観察
- 過剰な刺激は共同運動(***シナキネジア)を助長することがあるため注意が必要です。
- 経過観察では、「筋の動き」「顔の左右差」「しびれや違和感の有無」などを記録します。
- 家庭でのセルフケア指導(温罨法、ゆっくりした顔面ストレッチ)も重要となります。
5. まとめ
末梢性顔面神経麻痺の治療では、急性期は安静と炎症管理、回復期には適切な刺激と運動療法が回復のカギとなります。鍼灸やマッサージ、表情筋のトレーニングなど、東洋医学的なアプローチと現代のリハビリの知見を組み合わせることで、自然治癒力を最大限に引き出すことができます。
*ベル麻痺(ベルまひ)
「ベル麻痺」は、はっきりとした原因がわからないまま突然起こる顔面神経まひのことです。医学的には「特発性(とくはつせい)」と言われ、ウイルスや冷え、ストレスなどが関係していると考えられています。
特徴は次の通りです:
- 朝起きたら顔が動かない、というように突然症状が出る
- まひは片側だけに起こる
- 口元が垂れ下がったり、目が閉じにくくなる
- 味がわかりにくくなる、涙が出にくいなどの症状も
早期に適切な治療をすれば、多くの場合、数週間〜数か月で自然に回復します。
**ラムゼイ・ハント症候群
「ラムゼイ・ハント症候群」は、**水ぼうそうのウイルス(帯状疱疹ウイルス)**が原因で起こる顔面神経まひです。このウイルスが耳のまわりの神経に再び悪さをすることで、まひが起こります。
特徴は以下の通りです:
- 顔のまひに加えて、耳のまわりに小さな水ぶくれやかさぶたが出る
- 耳が痛い・聞こえづらい・めまいがすることもある
- ベル麻痺より重症化しやすく、回復に時間がかかることがある
早期に病院で抗ウイルス薬やステロイドを使うことが、回復のポイントです。
***シナキネジア(共同運動)
「シナキネジア(共同運動)」とは、本来別々に動くはずの筋肉が、いっしょに動いてしまう状態です。
たとえば:
- 目を閉じようとすると、口元もゆがむ
- 笑おうとすると、目が勝手に細くなる など
これは、まひが回復していく途中で、神経のつながりが間違って再生されることが原因です。
とくに、強すぎる刺激や、間違ったリハビリ方法を行った場合に、悪化することがあります。
そのため、顔の運動トレーニングでは、
- ゆっくり、少しずつ
- 間違った動きをしないように鏡を使う
- 自己流でやりすぎない
といった注意がとても大切です。

